世界の地政学的リスクは高止まりしており、経済と金融の安定性に及ぼす潜在的影響に関して懸念が生じている。
戦争や外交的緊張、テロといったショックは、国境を越えた貿易や投資を混乱させかねない。それは、資産価格に打撃を与え、金融機関に影響を及ぼし、民間部門への貸し出しを抑制し、経済活動を圧迫して、金融の安定を脅かす可能性がある。
このようなリスクは、特異な性質で、発生頻度が稀であることから、また、その期間と範囲が不確実であるため、投資家にとって評価が困難である。これは、地政学的ショックが現実化した際に市場の急激な反応につながりかねない。
最新の「国際金融安定性報告書」の関連章で示すとおり、重大な地政学的リスクイベント時(地政学的動向の悪化と関連リスクに言及したニュース記事の頻度で測定)には、株式が大幅に下落する傾向がある。月間の下落幅は世界平均で約1%ポイントとなるが、新興市場国ではそれよりもはるかに大きい2.5%ポイントとなる。
さまざまな種類の重大な地政学的リスクイベントのうち、国際的な軍事紛争が新興市場国に最も大きな打撃を与える。他のイベントに比べて経済の混乱がより深刻なものになるからだと考えられる。そうしたケースでは、株式リターンの月間の下落幅が実に5%ポイントと、その他のあらゆる種類のイベントに比べて2倍になる。
地政学的リスクの高まりは、経済成長の減速と政府支出の拡大を通じて公的部門にも影響を及ぼし得る。そのため、地政学的イベントが発生すると、デフォルトに対する防御であるクレジット・デリバティブの価格で測定されるソブリンリスク・プレミアムが上昇することが多く、平均の上昇幅は先進国で約30ベーシスポイント、新興市場国では45ベーシスポイントとなる。そうした金融のひっ迫は新興市場国で特に顕著であり、プレミアムは最大で4倍に拡大する。
国境を越えた波及
地政学的リスクイベントは、貿易や金融の連関を通じて他国に波及する可能性もあり、それによって伝播のリスクが高まる。主要な貿易相手国が国際的な軍事紛争に関わると、株価は平均で約2.5%下落する。同様に、同章で示しているとおり、貿易相手国が地政学的リスクイベントに関わるとソブリンリスク・プレミアムも上昇する。公的債務の対GDP比が高く、外貨準備が十分でなく、制度が脆弱な新興市場国では影響が少なくとも2倍となる。
資産価格への影響は、不確実性の高まりが主要な経路となる。地政学的ショックは、数か月間にわたってマクロ経済の不確実性を高める傾向がある。とはいえ、投資家は、こうしたリスクを認識しており、ショックに見舞われた際にパフォーマンスが低下し得る株式を保有する際、対価を要求する。
最終的には、資産価格の急落は銀行やノンバンク金融機関に悪影響を及ぼし、より広範な金融システムと実体経済に潜在的な波及効果をもたらす恐れがある。例えば、銀行は貸出を抑制し、投資ファンドは地政学的リスクイベントへのエクスポージャーがある場合にリターンの低下と償還リスクの高まりに直面するかもしれない。
リスクの緩和
世界の経済・金融市場は予測不可能かつ前例のないイベントによって定期的に根底から覆されるように見えるかもしれないが、それでも、金融セクターとその保護を担う機関が金融の安定を守るためにできることは多くある。
金融機関とその規制当局は、地政学的リスクを特定・定量化・管理するために、十分なリソースを配分すべきである。例えば、地政学的リスクが金融市場とどのように作用し合うかを織り込んだストレステストやその他の分析などだ。
さらに、金融機関は、地政学的リスクに起因する潜在的損失に耐えられるよう、十分な資本と流動性を維持すべきである。新興市場国と発展途上国は、投資家がリスクを管理できるよう、金融市場のさらなる発展・深化を図るべきである。最後に、バッファーが相対的に小さい国は地政学的ショックに対して特に脆弱であるため、十分な財政政策余地と外貨準備がそうしたショックから自国を守る助けとなるだろう。
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本ブログ記事は、2025年4月「国際金融安定性報告書」の第2章「地政学的リスク:資産価格と金融安定性への影響」に基づく。